獨協大学父母の会では、会員相互の交流促進を図ることを目的に、父母交流会を開催しています。2022年度は2023年2月25日(土)に元NHKアナウンサーの梅津正樹さんを講師にお招きし、「なるほど日本語教室~点検!日常のことば~」と題してご講演いただきました。
1972年獨協大学法学部卒業。NHK入局(アナウンサー)。元獨協大学非常勤講師、元大妻女子短期大学非常勤講師、元日本語検定委員会審議委員、元埼玉県そうか市民大学学長。現在獨協学園評議員、NHKアナウンス室契約アナウンサー、NHK研修センター専門委員、(一社)日本話しことば協会理事。
1)桜の花の色って『何色』?
桜の花の色をあなたは何色と表しますか?多くの人は『ピンク』と、英語で表現しています。ではピンクは日本語では何色ですか?と聞かれたら、『桃色』って答える方が多いんじゃないかと思います。桃色は桃の花の色です。桜が満開になると桃の花の色になる、これはおかしいですよね。
英和辞典のピンクの項目には、『なでしこ色』と書いてあります。英語のピンクはなでしこの花の色なんです。でも桜が咲くと皆ピンクだと言うし、それに納得しているんです。どうして誰も文句を言わないんでしょう?
2)日本人の感性に根付く『明暗顕漠(めいあんけんばく)』
日本では古代、色彩を表す固有の言葉はなく、『明暗顕漠』という光の様子を表す語で表現していました。明るいは『赤』、暗いは『黒』に対応し、顕漠の顕は『顕著』の顕から来ており、しるしから白に転じました。漠は漠然としている、はっきりとしない淡いさまを表す言葉であり、あわしから青に転じました。『赤の他人』『真っ赤な嘘』のように、明らかなことを赤と表現するのは、この言葉の変遷があるからです。
あわいから転じた青には、未熟という意味もあります。青年、尻が青いなどの言葉はここから来たものです。明暗顕漠は明暗と顕漠の対比ですが、日本人の感性の中では明らかなものと淡いものが対であり、赤と青が対にされています。赤鬼と青鬼、赤蛙と青蛙のように……、でも青蛙の色は緑なんです。日本人は赤と青、黒と白を対と考えてきました。緑は青の一部と捉え、みずみずしく新鮮である色として「嬰児」「緑の黒髪」と使うようになりました。
3)言葉ではなく、使う人間が変わっていくということ
日本で最初の信号機が日比谷交差点に立てられた時、法律では信号の色は「赤・緑」と明記されました。これは世界共通なのです。ところが、新聞紙上や一般には「緑」を「青信号」と呼ぶようになり、法律も言葉だけ「青」に変更されました。赤の対は青という日本人特有の感性です。言葉は時代と共に変わると言いますが、その言葉を使う人間が変わっているのです。言葉に正解は有りません。コミュニケーションをとるためには、皆が分かり合える言葉を使うことが大切です。